リクエストナンバー 1祇園祭BLUES(1〜10)  (11〜最終回)

祇園祭BLUES 11

僕たち3人は急ブレーキをかけた。 本日一部R−指定につきご注意願います(^^)       

天使がすぐに僕たちを見つけ駆け寄ってきた。

「私を祇園祭に連れてって?」

「え、かまへんの?」

「私をここに置いとくつもり?」

「あほな!」

「すぐに自転車取って来るし待ってて」

天使が自転車を取りに戻ろうとした時、暗闇から聞き覚えのある叫び声が聞こえてきた。

「お前ら〜そこで何してんねん!」

このダミ声は岡本に違いない。
僕らの逃げ足はサバンナのシマウマのように恐ろしく早い。
一瞬の判断ミスが重大な結果を招くことをよく知っていたからだ。

「あかん、取りに行ってる間ない。俺の後ろに乗れ!」

僕と天使が2けつ(二人乗り)して先頭を走り、その後ろをY君とM君が続いた。
天使は後ろから僕の腰にその両腕を回した。
天使との初密着〜(^^)v

しかしそんな悠長な感慨に浸っている間はない。

僕たち4人は立ちこぎフルスピードで逃げた。

岡本との距離は約30メートル。
いつもなら余裕でぶっちぎれる距離だが、いくら天使は軽いとはいえ2けつはハンディになる。
岡本は体力に物を言わせグングン距離を詰めて来た。

僕はY君とM君に叫んだ。

「1抜け作戦で行くぞ!但し今回の1抜けは2けつの俺や!」

「イ〜!」→Y君とM君がショッカーの声で答える。

*(1抜け作戦とは・・・)
毎日各方面の皆様から追いかけられる僕達は自転車で逃げ切る作戦をいくつか持っていた。
1抜け作戦とは、自転車のおまわり様に追いかけられた時、
僕とY君が逃げながらおまわり様に大変失礼な言葉を投げかけ、
おまわり様がカッとしたのを見計らってわざとおまわり様との距離を詰め、
交差点で僕とY君は右に曲がり、一番体力のないM君を左に曲がらせてM君だけをまず逃がす。
その後僕とY君は熟知した商店街の細い路地などにおまわり様を誘導し、逃げる。
M君だけを1番に抜けさせるので1抜け作戦。{良い子のみなさんは絶対真似しないように}

岡本との距離が近づいた。振り向いたらもう岡本の顔がはっきりと分かる。
作戦通りY君が岡本に向かって叫びだした。

「岡本〜!お前の○○○は×××らしいな。みんな知ってるんじゃ〜!
悔しかったら△△△して□□してみ〜!この岡本技研の○○ドームが!」

M君が続いた。

「お前実は××先生に振られたらしいな。お前なんか体力だけで頭からっぽじゃ〜」

岡本はM君のこの言葉に強く反応した。

「○○ドームは許しても××先生のことは許さへんぞ〜。何で知ってんねん。待たんかいM〜〜!」

どうやら××先生との噂は本当だったみたいだ。気の弱いM君が叫んだ。

「ヒ〜、なんで○○ドームを許すんですか〜?」

交差点で曲がる間もなく、体力のないM君は岡本に捕まった。

それを見て僕は先週見た「野性の王国」の、ライオンがトムソンガゼルをしとめた映像を思い出した。

Y君がM君に叫んだ。

「M〜、こなきじじいみたいに抱きついて放すな!」

「イ〜!」→岡本にぼこられながらも岡本に抱きつくM君の悲鳴

「おい、古川、岡本はもう大丈夫やし、俺お邪魔やしもう行くわ」

「そうけ、すまん。明日茶ぁおごるわ」

堀川丸太町の交差点で別れようとした僕達にマイクで声がかけられた。

「そこの自転車、無灯火、二人乗り、止まりなさい!」

京都府警と書かれたパトカーの赤いサイレンがクルクル回りだした。

「ヤバ、古川、パトや。どうする?」

「一通行け行け作戦に決まってるやんけ!」

*(一通行け行け作戦とは)
毎日各方面の皆様から追いかけられる僕達は自転車で逃げ切る作戦をいくつか持っていた。
一通行け行け作戦とは、自転車に比べてパトカーはスピードは出るが小回りが利かない。
特に交通法規をちゃんと律義にお守りになるパトカーの弱点は一方通行である。
自転車は一方通行を簡単に逆行できるが、パトカーには無理。
特に細い路地が多い京都市内は一方通行のオンパレードで自転車対パトカーの逃走劇では自転車が圧倒的に有利である。
但し短時間に逃げないと無線で自転車のおまわり様がたくさん呼ばれると即御用となります。
{良い子のみなさんは絶対真似しないように}

僕達は東堀川通を全力疾走で南下した。すぐに東側に国際ホテルが見えて来た。

「Y〜、夷川西向き一方や。ぬかるなよ〜」

「イ〜!」

自転車をこぐ僕の両足の太ももとふくらはぎが悲鳴をあげていた。
しかし、ここでギブアップするわけには行かない。
僕のお腹のちょうどおへその上あたりで天使の両手が組まれていた。
ほんのり天使の両手の温かみがお腹に伝わってくる。
あかん!下半身が反応しそうになって来た。
彼女は天使なのだ!天使に欲情しては罰が当たる!
しかもこんな逃げてる時に、しかも天使のお母さんのお通夜の夜に・・・。
どんだけ俺はスケベやねん。こんな時こそ念仏だ!

南無阿弥陀仏、南無妙法蓮華経、南無観世音菩薩、南無釈迦牟尼仏・・・・。

「おい古川、立ちこぎしながら念仏唱えるのやめ!気色悪いんじゃ」

「立ちこぎしてようが何してようが、念仏は唱えんと罰あたるど〜」

「そんなもん当たるかアホくさ。当てれるもんなら俺に当ててみぃちゅうねん」

そしてすぐにY君の願いは叶えられY君に罰が当たった。

竹屋町通りを過ぎたあたりで、Y君の自転車のチェーンがはずれ、いきなり自転車ごと転倒した。

祇園祭BLUES 12

 
天使が悲鳴をあげた。

「きゃ〜、古川君!Y君がパトカーの前でこけはったよ!」

「よっしゃ!でかしたぞY!」

「助けたげんでええのん?なんやおまわりさん二人でY君を抱えてはるよ!
あ、Y君が暴れだした。
Y君が押さえつけられてはるよ。早よ助けたげて」

「今助けたら俺らのきずなが壊れるんや」

「どういうこと?」

僕は天使にいけにえルールを説明した。

*(いけにえルールとは)
毎日各方面の皆様から追いかけられる僕達は自転車で逃げ切る作戦をいくつか持っていた。
いけにえルールとは、もしも逃走中に誰かが捕まったり、こけたり、投降したりした場合、
そいつは決して他の仲間の名前をゲロしないこと。
そして逃走した他の仲間が無事逃げ切れるように身を呈してあらゆる手段を講じること・・・というルールである。
{良い子のみなさんは絶対真似しないように}

「そうなん。そやけどなんかY君かわいそうや・・・」

「わははは、Yはそんなことではめげへんよ」

僕はYを信用して振り向きもせず夷川通りを左折し、
北行き一方通行の油小路通りを南に走り、
御池通りに出て東に走り烏丸通りまで出た。

パトカーが追ってくる様子がないのを確かめて烏丸通りを四条に向かって南下。
錦小路通りあたりで人ごみで身動きできなくなってきたので自転車を乗り捨て、四条通りまで二人で歩いた。

(天使と僕の祇園祭り逃避行略図)

東堀川通
  ↓(Yがこける)
   →夷川通→
          ↓
        油小路 
          ↓
        御池通→烏丸通
               ↓(錦小路で自転車捨てる)
             四条通

四条通りまで出ると、そこはもうほとんど「おしくらまんじゅう押されて泣くな〜」状態。
うかうかしてると二人は引き離されてお互いを人ごみの中で見失いそうだった。

その時天使が僕の手を握ってささやいた。

「この手ぇ放したらもう私のこと見つけられへんよ。それでもええの?」

僕のハートは長刀鉾の一番先っぽよりも高く舞い上がった。

「死んでも放さへん」

僕は天使の手を握り締めた。

「痛い痛い、もうちょっと優しくつないでよ。握力検査やないんやから」

「ごめんごめん。女の子の手ぇ握ったん初めてやねん」

「ほんまぁ?嘘ばっかり〜」

「ほんまやがな」

「そうなん。私は男の子と手ぇつないだことあるよ。ついでにキスもしたよ」

その瞬間僕の心は凍りついた。

そりゃこんだけかわいいんやから、中学くらいにそんなことあってもおかしくない。

ひょっとしたら高校入ってすぐに誰かとつきあってたのかもしれない。

僕の心は長刀鉾の一番さきっぽから一気に四条通りのアスファルトに叩き落とされた。

「そ、そうなん、昔のことやろ・・・。ほんでそいつといつ別れたん?」

「今もずっと一緒にいるよ。ついさっきまで一緒やったよ」

「ついさっきて、まさかYかMか?」

天使はうつむき、少し唇をとがらせて・・・そして・・・言った・・・。

「ごめんね・・・、古川君、私・・・ほんまはY君とつきあっててん・・・」

祇園祭BLUES 13

 京都中の時が止まった。

いままでコンコンチキチン、コンチキチンと鳴っていた鐘の音も夜店の客を引く声も、
人ごみの雑等の音も僕の耳には何も聞こえなくなり、まるで水の中に潜っているような感じがした。

僕の頭の中で加川良の「偶成」という曲がグルグル何度も回っていた。

*(「偶成」とは)
古川が好きなシンガーソングライター加川良の2ndアルバム「親愛なるQに捧ぐ」(1972年発表)の1曲目。
アマゾンで検索すれば視聴できますよ。歌詞もググれば簡単に出てきますので興味のある方は見て下さい(ふ)

僕には怒りも悲しみも何の感情も湧かなかった。
もうなんでもどうでもよくなった。
一番大切な女の子と一番大切な友達をいっぺんに失ってしまった。
僕は言葉を失い、立ちすくんだ。

「古川君、落ち込んでんの?」

「・・・・・・」

「私がY君とつきあってたら、もう今の私は好きになってくれへんの?」

「・・・・・・」

「どんな私でも好きになってくれへんの?」

「・・・・・・」

「古川君やったらどんな私でも好きやて言うてくれると思ったのに・・・」

「・・・・・・」

天使がまた泣き出した。泣きたいのは僕の方だ。

僕は精一杯の強がりを言った。

「もう分かったよ。嫌いになんかならへんから大丈夫や。
それよりYが好きなんやろ?なんで別れたん?やっぱり俺のせいか?」

「そんなことほんまに信用してんの?
私、古川君やったら笑い飛ばしてどんなお前でもええよて言うてくれると思ったのに・・・」

「え、それどういうこと?Yと付き合ってたんちゃうの?」

「そんなあほなことあるわけないやん!あんだけ毎日一緒にいたのに、そんなこともわからへんの?」

「そやけど、スケベなYならありうるかなて・・・」

「さっきん俺らは固いきずなで結ばれてるて言うてたやん。古川君は私もY君も誰も信用してないんやん!」

「そやけど急に言われたら俺動揺してもうたんや」

「もういい!古川君なんか大嫌い!」

そう言って天使は僕の手を放し、一人で走り出した。

嘘をついたり怒ったり、女心というのはなんて複雑なんだろう。

僕はすぐに天使の後ろ姿を追いかけた。

人ごみをかき分けかき分け、必死で追いかけた。

まるでスローモーションの夢を見ているみたいに、追いかけても追いかけても追いつけなかった。

そしていつのまにか河原町通りまで走ってきた。

天使は高島屋の前を越えて四条大橋の方へ走って行った。

縄手通りを越え、花見小路通りを過ぎた辺りで僕は天使を見失った。

とうとう八坂神社の階段まで来た。四条通りはここで行き止まり。

僕は必死で階段を駆け上がり、神社の中を探した。

天使はどこにもいない。

円山公園のしだれ桜の前まで来た。右に行けば二年坂、左に行けば知恩院に出る。

僕は迷った。ここで判断を誤まればもう天使との距離は取り戻せないだろう。

僕は目を閉じて耳を澄ませた。

心の中で何度も天使の名前を呼んだ。心の中で何度も天使に話しかけた。

そしていつのまにか僕は、何かがどこかへ導いてくれるような不思議な感覚の中にいた。

天使が僕を呼んでいるような気がした。

僕は迷わず知恩院の方へと駆け出した。


今日はここまでです。加川良さんは僕の大好きなアーティストの一人。
ライブに何度も足を運び、話した事も直筆のサインも持っています。その時色紙に書かれた加川さんの言葉

「古川君へ 命なんかに負けないで!」

アルバム「親愛なるQに捧ぐ」は名盤です。どの曲もすばらしいです。
「下宿屋」という歌はもう伝説ですね。僕は「夕焼けトンボ」という歌の歌詞が好きです。

「夕焼けトンボは何故赤い 俺の涙を見すぎたのだろうね 
泣けない(鳴けない)お前はかわいそうだね 泣けない(鳴けない)お前はかわいそうだね」

祇園祭BLUES 14

 知恩院の三門の階段に天使は座っていた。

天使は僕を見つめていた。僕は息を切らしながらゆっくり天使に近づいた。

「やっと見つけたで・・・」

「古川君、さっき心の中で私のこと呼んでくれたやろ?」

「うん。なんでわかったん」

「私にもわからへん。けどなんかわかってん。ほんでここにいるよ〜て返事したら古川君来てくれてん」

僕の感覚は間違っていなかった。

「古川君、なんでそんなに優しいの?
こんな嘘つく子なんかな放っておいてさっさと帰ったらええのに」

「そんなこと言わんでもわかるやろ。好きやからやん」

「・・・・・」

「なんで黙るん?」

「・・・・・」

「なんでYと付き合ってる言う嘘ついて俺を試そうとしたん?」

「・・・・・」

「そんなに俺は信用ないんか?」

「・・・・・」

「わかった。朝まで黙っててもええよ。一緒にいるから・・・・」

天使は観念したように、うつむきながらポツポツと話し出した

「私、古川君がいつも優しくしてくれたん凄くうれしかってん。どんな時も助けてくれたし・・・。そやけど、
それがだんだんしんどなってきてん」

「どういうこと?優しくされたらしんどいんか?」

「うん。私優しくされるような資格ないねん。ものすご悪い人間やねん」

「なんでやねん?」

「それ聞いたら古川君絶対私のこと嫌いになるよ・・・」

「絶対そんなことない。俺は何を聞いても嫌いになれへん。
そこの知恩院さんの仏さんと八坂神社の神さんに誓うわ」

「そやけどY君のことでもあんなに落ち込んだやん・・・」

「あれはちょっと油断しただけや。ええからはよ言うてくれ」

「あのな、私、お母さんがガンにならはってから、ものすごがんばってん」

天使は堰を切ったように一気に話し出した。

「朝は5時半に起きてな、お父さんと弟と自分のお弁当作るんよ。
それしながら洗濯機回して、それから朝ごはんの用意して、後片付けして、
洗濯物干して、二人送り出してからやっと学校行くんよ。
ほんで学校から帰ってきたら、洗濯物入れて、夕食と明日のお弁当のおかずを買いに行って、
夕食の下準備だけして、ほんでからお母さんの病院行くんよ。
病院に行ったらお母さんと話して、夕食食べはるん見て、食器片付けたげて、
汚れたお母さんの下着とか着替えを持って帰るんよ。
ほんで家に帰ったらもう夜の八時前やねん。
それから急いでお風呂洗って、洗濯物入れて、お風呂入れて、夕食作るんよ。
弟に手伝いなさい言うても、弟もかわいそうやし、
弟はすぐお腹減った言うから、お父さんが帰ってくるまでに先に食べさせるんよ。
ほんならおいしないとか、辛いとか文句言われんねん。
ほんでお父さんが帰ってきゃはんのが10時くらいで、お父さんのごはんの用意してな、
後片付けしてお風呂入って11時過ぎるんよ。
それから今日の授業の復習やらテスト勉強とかやりだしたら、寝るの夜中の2時位になんねん・・・」

「す、すごいハードスケジュールやな」

「お母さんが調子崩さはって、検査してガンやて分かって入院しゃはった時は、もう絶対私がんばろ思たんよ。
お母さんが生きるか死ぬかの病気で戦ったはるんやから、私もどんなにしんどかっても負けんとこと思った。
ほんで、私お母さんが病気になって成績下がったてわかったらお母さんも悲しまはるやろなて思って、勉強も必死でがんばったんよ。
授業中も何回か寝そうになったけど、がんばって起きててん」

「偉いな。すごいわ」

「そやけど・・・」

「そやけど・・・なに?」

「うん、始めは私ぜんぜんしんどなかったんやけどな、3ヶ月経って、4ヶ月経ってするうちに
だんだん私しんどくなって来てな、なんか毎日イライラするようになったんよ。
ちょっとしたことでも弟に八つ当たりしてな。
いっぺんなんか卵焼きの味がお母さんと違う言われて、私なんかものすご腹立って弟に本をぶつけてしもたん。
ほんなら弟が、お母さんお母さん言うて泣きやって、
そんなにお母さんがええんやったらもう病院で暮らし!て言うたら自分の部屋に行ってずっと泣いてやってん」

「そうなんか」

「ほんならお父さん帰ってきゃはって、わけ話したら、
お前はお姉ちゃんやからもっとがんばれ、最近成績も下がって来てるやないか。
お母さんはお前の成績を楽しみにしたはるんやぞて言われてん。
そんとき私、なんか、なんやろ、うん、なんか急に何もかも嫌になってきてな・・・。
朝から晩までこんなにがんばってるのに、もっとがんばれ言われて・・・。
もうがんばれへんくらいがんばって・・・。
ほんなら急になにもかもに腹が立ってきて、N子のことも妬ましく思ってきて、
N子は学校から帰ったらすぐ勉強できて、N子のお母さんがごはんも洗濯もお風呂もぜ〜んぶやってくれはって、
ほんでまた夜も勉強できて、テレビみる余裕もある・・・。
私は自分の時間なんかぜんぜんなくて、勉強する時間も減って、
それでもがんばってもまだがんばれ言われんのに、なんかN子がものすご憎たらしなってきてん・・・。
そやけどN子は私のお母さんの病気のことも知ってて、ノート見せてくれたり、
分からんとこ教えてくれたり親切にしてくれててん。
そやのに私、N子のこと憎んだりしてん。ほんま最低やわ」

天使は何度も鼻をすすり出した。

「私なんかだんだんと笑えへんようになってきて、ほんならだんだんと毎日何にも感じひんようになってきててんよ。」

「そうやってんや」

「そんな日が続いててな、
お母さんの先生がこの日のこの時間に検査があるからどなたか付き添って下さいて言われてん。
お父さんは仕事休めへん言わはるし、
私その時間やったら学校終わってすぐに行ったら何とかなるおもて私が行くことにしてん。
そやけど、その日は放送委員の打ち合わせがちょっと長くなって、急いで行こうと思ったら
自転車がパンクしてん。ほんでどうしよかなて思ってたら、古川君が声掛けてくれてん」

なるほど、だから泣いてたんや・・・。

「私急いで病院行ったら、病院の先生に遅い言うて叱られて、
ほんでお父さんにも夜に、学校で遊んでたんやろ言うて叱られてん。
ほんなら私またなんか何にも感じひんようになって来てな、
なんかもう、何もかも嫌になってな。
ほんでなんかパ〜ってはじけたくなってな。
ほんで古川君にパチンコ連れて行ってもらおて思ったんよ」

「そうやったんか」

「ほんで喫茶店初めて行って、私なんか久しぶりに自分やってるみたいにおもったんよ。
ほんならY君が入ってきてドタバタなって・・・・」

天使が少し微笑んだ

「それからも私の毎日は同じで忙しいだけやってんけど、なんかだんだん古川君の存在が大きくなってきてな、
古川君のことばっかり考えるようになってきてな、
お母さん病気やのに、喜んだり笑ったりしたらあかんて思うのに、
もうお母さん長くないかも知れへんからお母さんのことだけ考えなあかんて自分に言い聞かすのに、
やっぱり古川君のこと考えてしまうねん。
古川君と一緒に病院行く時が一番しあわせな時間になってん。
ほんならこないだ、さっきん古川君に文句言うてたおばちゃんいるやろ、あの人が病院きゃはってな、
看護婦さんに聞いたんやけど、なんやあんた病院の前まで男の子と毎日自転車で来てるらしいな!て言わはってん。
ほんで、
お母さんが病気の時に何考えてんの、信じられへんわ!てお母さんの前で怒鳴られて、
ほんならお母さんが
情けないわ・・・言うて泣き出さはってん」

あのおばはんの靴にいつか犬のうんこか画鋲を入れてやる・・・・

「ほんならおばちゃんがもっと興奮しゃはって、
母親が病気やのに男と自転車乗ってくるあんたもあんたやけど、つきまとう男も男や、お母さんがもしはよ死なはったらあんたのせいや!言わはってな。
ほんなら私、今までがんばってきた心の糸がプッツンて切れてな、
涙がいっぱいあふれてきてな、もうわけ分からんようになってん。ほんでな、ほんでな・・・」

祇園祭BLUES 15

「ほんでな、私、頭の中真っ白になってな、涙がいっぱいあふれて来てな、
こころの中でなんかの糸がプッツンて切れてな、お母さんに、もうええから早よ死んでよ!て言うてしもてん」 

「そうなん・・・。そやけどほんまにしんどいにゃし、そんだけがんばってそんなん言われたらそう言いたくなるのも無理ないで・・・。」

「ちゃうねんて。ちゃうねんて。まだその先があんねん。
ほんで私病室飛び出して自転車で家に帰ろうて思たんやけどな、なんや帰りたくなくて、ほんで古川君が初めて病院について来てくれた日に会った御所の蛤御門のとこに行って、ひょっとして古川君が偶然にでも来てくれへんかなぁて待っててん。そやけどそんなん無理やって・・・・」

「ごめん。一生の不覚や・・・」

「古川君は悪ないんよ。ほんで日も暮れかけて来たし家に帰ったら隣のおばちゃんが立ってはってん。
ほんで、あんたすぐ病院行かなあかんよ!お母さん危篤やて!
今さっきんお父さんが弟さん連れてタクシーで病院行かはったとこや。あんたその自転車で行ってる時間ないよ。
今うちのおっさんに車出させるからそれ乗って早よ行き!て言うわはって、ほんでおじさんに乗せてもろて病院行ったんよ」

「そうやったんか・・・」

「ほんで病院着いて急いで病室行ったらな、もうお母さん・・・死んではってん」

「・・・・・」

「みんな私のせいやねん!私が早よ死ねて言うたからお母さん死なはってん!私は人殺しやねん!私は母親殺しやねん!そやし、私なんか古川君に優しくされる値打ちなんかないねん!」

僕は必死で言葉を捜した。ここで黙り込んでしまえばまた天使が逃げ出すかも知れない。

「あのな、お母さんに早よ死ねて言うたからお母さんが死んだて言うてるけどな、
お母さんに早よ死ねて言うたこととお母さんが死んだことは別なんちゃうか?」

「そんなん言うて私を励まそうとしてくれてんにゃろ・・・」

「ちゃうて、だいたいオカンという生きものは子どもに死ね!て言われたくらいでは死ねへんで」

「そんなん言うて古川君はお母さんに死ね!なんて言うたことないやろ?」

「俺はそやな、一日平均5回は言うよ」

「え、嘘やろ?」

「ほんまやて。しかもこの4年間くらい毎日欠かさず言うてるけど、
死ぬどころかますます強くなって最近では鉄人28号みたいになってるよ」

「ふ、古川君のお母さんてどんな人?」

「どんな人て、もう、無茶苦茶やで。小学校の時、鈴カステラぱくって(盗んで)オカンに正直に言うたら、
ほんまにパトカー呼びよってな。ほんで俺パトカーに乗せられて西陣署まで連行されたんよ」

「す、すごいお母さんやな・・・。
そやけどそれはたまたま古川君のお母さんが特別強いだけで、
他のお母さんは子どもに死ね!て言われたらやっぱりあかんのちゃう?」

「そんなことないで、こないだなんかY君の家でY君と花札やってたらな、
Y君のおばちゃんがいきなりふすま開けて入ってきゃはってな、Y君に、
お前また財布の金パクったやろ!3千円足りひんのじゃ!て言わはってな、
ほんならY君が、じゃかましいクソババが、盗られるもんが悪いんじゃボケ!死にさらせ!て言いよったんや。
ほんならおばちゃん、炊事場からフライパン持ってきてY君の頭どやしつけはってんや。
ほんなら、普通カーンて音すんのに、ドスッて鈍い音してな、ほんならY君が白目向いて前に倒れよったんや。
ほんで名前呼んでも応えよらへんし、びっくりして救急車呼んで俺とおばちゃんで府庁前の日赤に行ったんよ」

「す、すごい話やな・・・」

「ほんで日赤の救急で診てもろてたらYの意識が戻ってな、
レントゲンとか撮ったけど異常なかって、このまま吐くとかがなかったら大丈夫でしょう。
脳震とうですて言わはってん」

「よかった・・・」

「ほんでお医者さんが、おばちゃんに、
事情を教えて欲しい、暴行事件やったら警察に通報せなあかんて言わはってな、
ほんならおばちゃん、いきなりよそ行きの声にならはって、
いや〜せんせ、かなんわほんまに、どうしよ、いや、うちお台所でフライパンの整理してましてん、
ほんでフライパン持って振り向いた時にいきなりYちゃんがフライパンの前に頭持って来まして、
はぁ、あんまりいきなりやってよけられませんでして、ほんまYちゃんはあわてもんでしてね、
いや、せんせ、嘘ちゃいますで、この子、ほら、古川君言うてYちゃんの幼馴染ですねんけど、
この古川君がみんな見てましたから証人みたいなもんですわ。なぁ古川君!びっくりしたなぁ」

「話を振られたから俺、Y君のおばちゃん見たら、眉間にしわ寄せてこっち見てメンチ(にらみつけること)切ってはるんよ。
Y君のおばちゃんが眉間にしわ寄せてメンチ切ったら決して逆らってはいけないという掟があってな、
ほんで俺せんせに、
はいY君はおっちょこちょいでこないだも高校の自転車置き場の鉄柱に顔面ぶつけて鼻血出してました!て言うたら信用してくれはってんや」

「それほんまなん?私を励ますために笑い話作ってくれたんちゃう?」

「あほな、これは俺にとっては笑い話なんかちゃうで。
このことは決して誰にもしゃべらないて言う証文書かされて、針で親指の先刺されて血判状にされたんや。
ほんでもししゃべったら左手の小指を詰めるという約束なんよ。
そんなんされたらギター弾けへんようになる。そやし絶対黙っててや」

「うん。そやけどY君のお母さんてすごいね」

「そやで、Y君のおばちゃんの左足の内ももにバラの刺青入っててな、
なんでそんなとこに刺青入れるん?て聞いたら、
博打した時に左足立てて刺青見せたら、たいがいの男は刺青に気を取られてイカサマがしやすいて言うてはったよ」

「そ、そうなんや・・・。
そやけどそれはこんなん言うたら古川君とY君のお母さんに失礼やけど、ちょっと特別なお母さんやしやろ。
ごく普通のお母さんやったら、やっぱり子どもに死ね!て言われたらあかんのちゃう?」

「そう言われればそうかもしれんな・・・。
俺もY君もこのオカンしか知らんからな。そう言えば俺らのオカンはキングコング並みかも知れんな」

その瞬間、僕はまた天使がプッと笑いそうになったのを見逃さなかった。

「ほんまに古川君は人の話し聞く天才やわ。
なんか古川君に話し聞いてもろたらどん底の気分がいつもちょっと軽くなんねん」

「そうなんか。それやったらええけどな・・・・」

「そやし私、しんどなったらなるほど、あぁ古川君に会いたいなぁて思うねん」

「そうなんや。ほんでなんで祇園祭なん?」

「うん。私もうお母さんの写真見るのも辛いねん。
ほんでもうお通夜の場所からどこでもええし離れたかってん。
ほんで今日宵山やろ。
そんなん頼んでやってくれるんてもう古川君しかいいひん思てん。ほんでN子に頼んだんよ」

「なるほどな」

「古川君ありがと。ごめんね、お通夜の席では嫌な思いさせて・・・。
あのおばちゃんは私も前から苦手やってんよ・・・」

「俺はそういうことの耐久力がめっちゃあるし大丈夫や。それより俺のこと信用してくれるか?」

「うん。ここまでしてくれてんやもん。信用する」

「ほんまか?知恩院さんの仏さんと八坂神社の神さんに誓えるか?」

「うん、誓う」

「どんなことがあっても俺を疑うなよ」

「うん。疑わへん」

「よっしゃ、ほんなら行こか!」

僕は天使の手を握り、ひっぱり上げ急ぎ足で歩き始めた。


祇園祭BLUES 16


 僕は天使の手を取り、再び四条通りを烏丸に向かった。

四条通りにはたくさんの人、鉾、山、出店であふれかえっていた。

「この鉾とか山にはそれぞれ神さんやら仏さんがやはるらしいで」

「そうなんや」

「俺、さっき心の中で名前呼んだら、なんか応えてくれたような気がしたんや。
ほんでそっちの方いったら会えたんや」

「うん。私も古川君の声が聞こえたような気がした」

「そやろ。それってなんか不思議やん。俺だけちごて二人ともそう感じたやん」

「うん。ほんまに不思議やね」

「そいで俺思ったんや。これってなんや自分の力ちごて、
もっとでっかい神さんとか仏さんとか宇宙とかの力でそうさせてくれはったんちゃうかな・・・」

「うん。私もなんかそんな気がするわ・・・」

「そやろ。ということは、お母さんはもう死なはったけど、
一生懸命話かけたら応えてくれはるかもしれへんやん」

「そうかな。けど怒ってはるかもしれへんし・・・」

「そんなん聞いてみなわからへんやん。
それにはやっぱり、ちょっとでもお母さんの側に行ったほうがええと思うんや」

「うん・・・、え、家に戻るん?」

「そうや。戻るんや。ほんでお母さんの前で心で聞いてみるんや。」

「そんなんして、もし怒ってはったり、恨んではったらどうすんの?」

「さっき、俺のこと絶対信用するて言うたよな!」

「うん・・・」

「何があっても疑わへんて言うたよな!」

「うん」

「大丈夫や。俺が保障する。お母さんに心で聞いてみるんや」

僕は天使の手を引いて八坂神社の階段を降り、四条通りを烏丸に向かって歩き出した。

四条通りは鉾と山と人で歩くというよりは、進まない列に並んでいるような感じだった。

だけど僕には何となくここを歩けばいいというのが分かった。

自分で分かったというよりは、何かに導かれているような、背中を押されているような不思議と温かい感じがした。

僕と天使が鉾や山の横を通る度に、何か目に見えない力に励まされ、促されているような気がした。

まるで天の川を渡っているおりひめとひこぼしみたいに思った。

撤去されたかもしれないと心配した自転車も、もとの場所にあった。

僕は天使を後ろに乗せ、天使の家に向かった。

「私、古川君の自転車の後ろ乗るの好きやわ」

そう言って天使は僕の背中に顔をあてた。

「あんなぁ、俺、今月の27日で16になんねんや。ほんならバイクの免許取れるんや。
バイクはうちに売るほどあるからな。CB400言うのんキープしてあんねん。
免許取ったら二人でいろんなとこ行こうや
。春は桜見に行こう。嵐山みたいな近いとこちごて奈良の吉野に行こう。
ほんで夏はやっぱり海やな。高浜か須磨に行こうや」

「ほんまに!連れてってくれんの!」

「任しとけ!」

(これが後に、一枚目のCD{夢情熱あこがれ}に入っている「大好きな彼女をバイクに乗せて」という曲になります。
よかったら聴いて下さい)


天使の家に着いた。

「どんな顔して入ったらええの?」

「そんなん簡単やて、俺もY君も家出は慣れてるからな。普通の顔して「ただいま〜」言うのんが一番ええねん。
ほんなら向こうも「お帰り〜」てなもんや。そんなもんや」

僕の言うことが信じられないような天使の背中を押し、
僕達は玄関から家に入り、お母さんの遺体がある和室に行き、二人で「ただいま〜」と言った。

和室にいる人々は僕達を見て驚いた。

状況は一転していた。

「よう帰って来てくれたな!よう帰って来てくれたな!おばちゃん心配してたんやで、ウッウッ」

そう言ってヒステリックなおばさんは天使を抱きしめた。

「お姉ちゃん帰って来てくれたんや。お姉ちゃんや〜、うわ〜ん」

そう言って弟は天使にしがみついた。

「すまんかった。お父さんが悪かった・・・。かんにんしてくれ・・・。
もうどこにも行かんといてくれ・・・。もうこれ以上誰も失いたくないんや・・・」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

天使は何度もみんなに謝った。

「あんな、古川君がここに連れて帰ってくれはってん。さっきんはおばちゃんやらもお父さんも古川君のこと悪う言うてたけど、ちゃうねん。古川君がいいひんかったら私今頃どうなってたかわからへんねん。それだけは分かって」

「うん、うん。古川君、娘を連れて帰ってくれてありがとう。この通り礼を言います」

天使のお父さんが僕に土下座をして謝った。てっきり2〜3発殴られると思った僕はこの展開に驚いた。

しかし驚いている暇はない。僕にはまだやるべきことがある!

祇園祭BLUES 17 (最終回)

 

 僕は和室に上がりこみ、お父さんと向き合って土下座をした。


「すいません。お父さん、聞いて欲しいことがあるんです」


驚くお父さんに僕は今までの天使の話を全部聞かせた。


毎日必死でがんばったこと。もう一度お母さんと買い物したいこと。

検査の日に遅れたのは事情があったこと。


成績下がったことを責められたこと、もっとがんばれて言われたこと・・・。


お父さんは何も言わず、ただじっと僕の話を聞いてくれた。


「そうやったんか・・・。知らんかった。お前もしんどかったんやな。
お父さんも自分の仕事と看病で必死でお前のことまで気に掛ける余裕がなかったんやな・・・。すまんかった」

「わかってもらえて良かったです。
けど一番僕が言いたいのは、自分がお母さんに死んだらええねんて言うたからお母さんが死んだて
ずっと自分を責めているということです。
僕と自転車で病院の前まで毎日来てたことをおばちゃんに責められてついカッとして言うたんです。
半分は僕も悪いんです。
そやけど僕も一緒にいたいて言う気持ちを押さえられへんかったんです・・・」

「そうやったんか・・・」

「おばちゃん悪かったわ。かんにんやで。
うちら小さい時に両親なくして女きょうだい二人で助け合って生きてきたから、興奮してついあんなこと言うてしもてん」

天使はただうつむいて聞いていた。

「そやけどあんたのお母さんはあんたのこと死ぬ寸前まで心配してたんよ・・・」

「うそ・・・。ほんまに。けど私に情けない言わはったやん・・・」

「あ、そうか、あんたすぐ出て行ったし知らんわなぁ。
あの後あんたのお母さんな、うちが元気やったらあの子にこんな苦労させんでも良かったのに、
勉強でも彼氏でも、なんでも相談にも乗ってやれたのに、
病気であの子に何にもできひん自分が情けない 言うて泣いてたんよ・・・」

「ほんまに?ほんまにお母さん私のこと心配してくれてはったん?私のこと怒ってなかったん?」

「それはお父さんも保証する。死ぬ寸前までお前の名前呼んでたんや」

「ほんまやでお姉ちゃん。僕もちゃんと聞いてた。お母さん、お姉ちゃんの名前呼んでたよ!」

天使はお母さんが亡くなって初めて遺影のお母さんを見つめた。

僕は棺おけを見ながら天使を促した。

「お母さんはまだそこにやはんにゃ。今やったら大丈夫や!目つぶってお母さんと心で話するんや!」

「うん・・・」

天使は静かに目を閉じた。
誰も何も言わなかった。誰も何も言えなかった。
時計の音だけがコチコチと響いていた。

僕も静かに目を閉じた。

知恩院の前で天使を見つけた時や
、四条通りの鉾の横を天使と歩いている時のような感覚が僕を包んだ。

僕は天使が今、お母さんと心で話していることを感じた。

僕の頭の中に映像が浮かんできた。

天使はお母さんと一緒に商店街を歩いていた。天使はうれしそうだった。
天使はお母さんと一緒にコロッケを買うために並んでいた。
天使はお母さんの手を引いて公園まで連れて行った。
天使はお母さんをブランコに乗せた。
「今日は私が百回押したげる」
天使はお母さんに、いっか〜い、にか〜いと幼い頃お母さんが数えてくれたみたいにブランコのお母さんの背中を押した。
百回押すとお母さんがブランコを足で止めた。
「ありがとう。気持ちよかったよ」
「お母さんごめんね。早よ死んでよ言うてごめんね。
私お母さんのこと大好きやのに・・・、あんなこと言うてごめんね、ごめんねお母さん」
天使はブランコの前で泣きじゃくった。天使のお母さんは天使を抱きしめた。
「あほやなこの子。そんなんお母さんちっとも気にしてないよ。お前はお母さんの宝物や」
「ほんまに、ほんまに」
「当たり前やん。ヤクルト配っててこけた時、
あんた、お母さんが死ぬ言うて泣きながら電気屋のおじさんに知らせてくれたやろ。
お母さんほんまにうれしかったよ。血が出て痛いのも吹き飛んだよ」
「あの時はびっくりしたもん」
「あんたの歌ってくれたジングルベル、もうかわいいてかわいいて、お母さん今も覚えてるよ」
「うん、お母さんほめてくれたもん。私のお母さんの思い出、お母さんも全部覚えててくれたんや」
「当たり前やろ。お母さんとあんただけが知ってる二人だけの大切な思い出や」
「お母さん!お母さん!私お母さん大好きやねん!」
「お母さんもあんたが大好きやで。お母さんの子どもに生まれてくれてありがとう」
「お母さん、お母さん」
天使はお母さんにしがみついて泣きじゃくった。

遠くから鐘の音が聞こえて来た。

これは聞き覚えのある祇園祭の鐘の音だ。

コンコンチキチン、コンチキチン。コンコンチキチン、コンチキチン。

いつのまにか天使とお母さんの前に放下鉾が来ていた。
お母さんの体は白い光に包まれて鉾の上に乗った。

「お母さんはもう行かなあかん。
行く前にどうしてもあんたと話がしたかったんや。
もうこれで思い残すことはないわ。ほんまにありがとう」

「嫌や〜!お母さん行かんといて〜」

天使が鉾の後を追いかけようとすると鉾の中から二羽の白い大きなフクロウが飛んできた。

1羽のフクロウが天使に話かけた

「あんなに嫌がっていたのに、あなたと話せてお母さんは今やっとこの鉾に自分から乗ったんだよ」

もう一羽のフクロウが天使に話しかけた

「お母さんは私達がちゃんと連れて行くから安心するんだよ」

天使のお母さんを乗せた放下鉾は白い光に包まれ

コンコンチキチン、コンチキチン。コンコンチキチン、コンチキチン・・・と

鐘を鳴らしながらゆっくりと空に昇って行った。

[END]
                       


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